
-
師弟関係と歴史について
林氏:かれこれ30数年前、当時は職人を希望する若者もとても多かった時代。その中でもシャンボールを目指す人たちの意識はとても高く、当然に一流シェフを目指す「狭き門」を争うライバルが多い時代でもありました。その中でも中村くんは意識の面でも技術習得の面でも抜きんでた光ったものをもっていたというのを今もよく覚えていますね。
中村:当時スーシェフでいらっしゃった林さんは「鬼軍曹」と呼ばれていらっしゃいました。バリバリの男性社会だったあの頃、その厳しさや「プロフェッショナルとはなにか」ということを教えて頂きました。
林氏:そうだったかなー(笑)。
中村:そんな厳しい林さんが、チェサピーク創業の際に、私がシャンボールを後にする日、エレベーターにまでお越しになって見送って頂いたことがとても光栄で嬉しかったことを覚えています。
-
匠にとって「フランス料理」とは
中村:チェサピーク創業当時、オーソドックスなフレンチよりも、ヌーベルに気持ちが傾いた時期がありましたね。しかし、オーナーより「ヌーベルもまた、オーソドックスな技術の裏打ちがあってこそ。」というアドバイスをいただき、原点の大切さを再認識するようになりました。私の創作フレンチがオーソドックスの原型を外れないのも、この意識の積み重ねがあるからだと考えています。
林氏:そうですね。フレンチとは数ある料理の中でも、最も幅の広い料理だと自負しています。お肉でもお魚でも技法は無限なほどに様々ですし、スープひとつとっても軽く100種類はくだらない。一生かかっても勉強は終わらない、それだけ深い世界があるものだと思います。中村くんが言うように、原型があってこそのフレンチ。ここは揺るぎないと思いますね。そのうえで業界の進歩に合わせてヌーベルを取り入れていく。このあくなき追求があってこそ、初めてお客様の心を動かすお料理を創ることができるのだと思います。
-
食材のこだわりについて
中村:やはり欠かせないのは旬の食材です。そして地域のものをチョイスすることによって鮮度を活かすことができますよね。また、契約農家さんとは作物についての相談を重ねています。ちょっと風変わりな野菜や女性の関心が高いものなど、正道を踏み外すことなく、創作フレンチをお届けできるように日々、メニューについて想いを巡らせています。
林氏:その地域の新鮮な食材が手に入り、お料理をお届けできる。このスピード感こそがチェサピークの強みですよね。中村くんの食材の活かし方は、確かな技術を積み重ねてこられたことがお料理に表れています。
一方、ホテルレストランは食材の取り扱いが少し異なりますね。仕入れの量やタイミングも加味しながら、食材の状態を入念にチェックします。鮮度がよければマリネにしたり、寝かせた青魚などはアミノ酸が出るのを待ち、その旨味を活かすなどの方法をとることがあります。
-
中村:おっしゃる通りですね。食材もイメージしていた大きさや状態と違うかたちで入荷することがありますし、それによって調理法を変更するおもしろ味もあります。
林氏:そこがシェフの腕の見せ所ですよね。中村くんの研究への熱意は本当に尽きないと感心しています。
中村:ありがとうございます。ぜひ次回は今後のフレンチの動向についてなどおうかがいしたいです。
林氏:わかりました。ぜひ、お話しさせてください。最後になりましたが、創業30周年、誠におめでとうございます。